最後のフィルム世代より

終わりが来る前に、まだ出来る事がある。

003.ドレットノート

つい最近になり、フルサイズのアコースティックギターを購入した。

大学二年の時に一万五千円ほどのモーリスのミニギターを手にしたことがあったのだけど、
弾き難さと音量の小ささに結局手放してしまった。
それから近くのゴミ捨て場に置いて行かれていた
無名メーカー(確かATRASといった)のアコギを持ち帰ったこともあったけど、
そちらは大学に持って行ってサークルの後輩に譲ってしまい、
結局ちゃんとしたアコギを手に入れたのは今回が初めてだ。


そもそも僕にとってアコギとは「古くさい楽器」というイメージがあった。
ASIAN KUNG-FU GENERATIONからロックの世界にのめり込んでいった僕にとって
ギターとはエレキギターだ。歪ませたあの鋭く太い音こそ、僕の中のギターの音である。
実際にスタジオに入ってアンプから音が出た時は「今なら誰にも負ける気がしない」
といった全能感に駆られる。エレキの音は僕に音楽の表現の手段を与えてくれた、
僕が出せた最初の音だった。

しばらく経ち、大学一年の頃だっただろうか。
バイト先の先輩の一人に音楽をやる人がいて、その人とバイト後に飲みに行ったことがある。
先輩はなにやら小さなギターケースを抱えていた。
「それ、なんですか?」
「ああ、これ? ミニギターだよ」
僕はそこで生まれて初めてミニアコースティックギターを目にした。
小さなエレキギターならFERNANDESのZO-3とかがあるが、
アコギにもそういうものがあるのは知らなかった。
取り出したミニギターをサッと構えると、先輩はバーの席に座りながら滑らかな指運で
短いフレーズを弾いてくれた。思えばあれが僕がアコギの音に弾かれた切っ掛けだったのだ。
それからしばらくして買ったのが、冒頭で語ったモーリスのミニギターだ。
しかし手に入れたギターは先輩の持っていた
あのミニギターとは比べものに出来ない音だった。
作りが悪い訳ではないし、僕が下手なだけっていう事もある。
だけども期待を裏切られた気持ちになってしまい、結局僕はエレキに戻った。

大学を卒業し、働き出してしばらく経った頃。
FoZZtoneというバンドが弾き語りのスコアブックを出した。
ボーカルの渡會将士氏はその声もさることながらアコギのプレイがとても上手い。
一度アコースティックライブに行ったことがあったが、その格好良さといったらなかった。
またバンドの曲でもアコギを頻繁に使っており、かねてからその音に僕は憧れていた。
そんな彼らの弾き語りスコアが出るのを、僕はずっと待っていたのだ。
バンドスコアではないのが残念だったが、オーダー開始と同時に購入した。
そして届いたスコアとにらめっこしながら、僕はエレキでの練習を始めた。

また、そのスコアの中には、
アコースティックギターを使ったアーティストの紹介をしているミニコーナーがあった。
その中の一人にJohn Butlerという名前があった。
彼はオーストラリアで活動をするアーティストだ。姉の留学先であるオーストラリア、
というのもあって試しに聴いてみようとYoutubeで検索を掛けた。
もし良かったら話のネタに姉に教えてみよう、そのくらいの軽い気持ちで考えていた。

結果的に、僕はジョンの出すアコギの音に圧倒されてしまい、
二度目のアコギブームを迎えたのだった。

http://www.youtube.com/watch?v=6VAkOhXIsI0