最後のフィルム世代より

終わりが来る前に、まだ出来る事がある。

011.蹴る、歩く、走る

 僕は歩く事が好きだ。
夜9時半くらいになると、夜食を買いに出たくなり、
そのまま一時間ほどふらふらと夜の街を彷徨ってしまう。
地元の道は大体把握出来ているから、当ても無くひたすら歩く。
気が向いた道に入ればいいし、喉が渇いたらその辺にある自販機でコーヒーを買う。
そんな事を週に何度かやっている。

そして先日、サンダルで一時間歩き回ったせいで、足の右中指の皮が擦り剥けてしまった。
今回に始った事ではない。
歩く事は好きなくせに、それに一番大事な道具、靴を僕はかなりおろそかにしている。
だから『足の指の皮擦り剥けた記念』でちゃんと歩くための靴を買った。

それが今回買った、vibramのfivefingersだ。




この靴、名前の通り指の部分が五本に分かれている。
一時流行った五本指の靴下のシューズ版といったところだろうか。
靴下と違って先端部分は見えない、固いので、履くのにはものすごい苦労をする。
実際、20分ほど「履けない、これ履けない!」と格闘した。
履いてみると、あまり靴を履いているようには思えない。
五本指靴下の、足の裏がしっかりしたバージョンのような感じだ。

履き終えた後、少し外に出てみた。
まず歩いてみる。なるほど普通の靴とは確かに歩いた感触は違う。
ラバーソールのような部分がないから、足で地面を踏んでいる感覚が直に来る。
全体はメッシュ部分が多い、かつ靴下は履かないので足下はとても涼しかった。

少し歩くと、ふつふつと、走りたい衝動に駆られた。
fivefingersは元々、アスリートの人達に評価が高い靴だ。
僕は漫画家の安倍吉俊先生のブログで「変な靴だなー」と思って知ったのだが、
やっぱりアスリート(いい響きだよね)御用達ならそれなりの理由もあるだろう。
さらに言えば僕の買ったモデルは『speed』という名前である。走るしかあるまい。

で、走った結果だが、
僕は歩くのが専門で走るのはからっきしダメだ。
ものの五分程度、流すくらいだと思ったら本格的にヒーヒーいっていた。
我ながら体力のなさに愕然である。よくこれで一時間歩けるもんだ。
だけど、普通の靴で走るのよりは数段走り易かったように思う。

子供の頃、裸足で校庭を全力疾走してた時の感覚が、ちょっと似ていた。
普段なら踏みつけて行く石も、僕の足に立派に自己主張をした(わりと痛かった)。
これから毎日、なるべく走ってみようと思う。
折角speedという名前の靴ならば、それに見合う事をしてやらねばならない。

汗だくでワイシャツを片手に握りしめて、そんな事を考えた夜11時。