最後のフィルム世代より

終わりが来る前に、まだ出来る事がある。

015.煙草の灰が溢れて

今日の昼ご飯は上司と取った。

うちの会社は上下関係というものがあまりなく(もっとも、礼儀と敬意は払うけど)、
その上司とは絵を中心にいろんな事で話を交わす事が多い。
今日も今日とて僕はタコライス、上司はタイカレーをつつきながら、
『匂いのメカニズム』とか『儲けている商業漫画』とか、
『高校部活は非生産性の代名詞』とかなんだかよく判らない事まで。

で、今回の本題はそれとは全く関係ない事です。


 食事も一通り済ませ、他愛もない事を話している時に、
「あ、煙草吸っていいですよ」といわれた。
上司は誰に対しても敬語を使う人なので言い方はとにかくとして、
そうだった。僕は一応喫煙者だったのだ。

いろんな人に会ってくると、中には小学校から吸っていたという人もいるが、
僕は煙草は大学一年になってから吸い始めた。
一番最初に吸ったのは大学に受かった後、男女四人で遊んでいた時に、
既に大学に入っていたひとつ年上の友人から貰ったキャスターの100's ロングだった。
格好付けで吸ったのだが、これが凄まじく咽せてしまい、格好良いもヘッタクレもなく、
『こんなバカみたいなもの吸うなんて、こいつはすごいバカなんだな』と思った。
それから僕がバカになったのはたったの二ヶ月後である。上を行くバカがそこにいた。

あまりバカバカいっているとバカになるのでこのへんで止めておこう。
ともあれ僕は煙草を吸い始めた。というのも、課題で詰まり始めたからである。
うちの学科は基本グループワークで、そのグループはアトランダムに決められてしまう。
よって全然仲良くない、話もしない人とグループを組まれる事も多かった。
しかもその人がびっくりするくらい使えない人だと、これはもうハゲあがる一歩手前。
これが会社とかだとまだ我慢出来るんだけど、大学だから始末に終えない。
そうなってくると逃避の手段が欲しくなり、その手段として選んだのが『煙草』だった。
気の合う友人と連れ立って缶コーヒーを買って、喫煙所で一服しながら話し込む。
お金も居場所もあまりない学生にとって、喫煙所は気楽になれる数少ない場所だった。

しかし社会人になってから煙草の本数は激減した。というか、全然吸っていない。
別に嫌いになった訳じゃないし、喫茶店には煙草を持って行きたいとも思っている。
多分減ったのは、吸える場所が遠くなってしまったからだろう。
今のオフィスが入っているビルは全館禁煙である。下の駐車場さえ吸う事が出来ない。

僕は気楽に吸ってこそ、本当の喫煙者、愛煙家だと思っている。
新宿や渋谷の駅前に群がって煙を吐き続ける人がいるが、僕はああいうのがどうも苦手だ。
なんで他の人の煙草の煙に包まれながら、時間を気にして煙草を吸わなければならないのか。
僕の好きな煙草は、好きな人達と、好きなものを呑みながら、ゆっくりと腰を据えて、
話し込みながら吸う煙草なのだ。

かつては煙草一箱買うのも、金銭的に億劫だった。
今はそこまで気にせず、買えるくらいにはなった。
だけどその代わりに、僕は吸う場所を失ったんだと気付いた。