最後のフィルム世代より

終わりが来る前に、まだ出来る事がある。

037.声をかえせ

渋谷タワレコの改装はいつ終わるのか。
2Fに出来るというカフェはどんなボッタクリメニューを出すのか。
そんな事を考えながらそそくさと目当てのCDを求めた。

今日のCDはPeople In The Boxの『Ave Materia』。

 
People In The Boxは僕がまだ喫茶店で働いていた時、
バイトの先輩から「君は多分好きだよ」と云われて聴き始めた。
最初に聴いた曲は『ユリイカ』だ。
なんだか不思議だけど焦燥感と切なさに駆られる曲だなぁ、と思った。
それと、その先輩の歌声に良く似ていた。面白いなー、とも思った。

それから気付けば結構ハマっている。
間違いなく音楽の血脈の中には混じっているだろう。
彼等の出した2ndアルバムの『Family Record』は、
僕の音楽史上の大傑作のひとつとして君臨している。
前回の『Citizen Soul』も良かった。

さて今回のアルバムは事前から色々話が流れてきていた。
『ピープルが優しくなった』というのが印象に残っていた。
元々彼等は優しさよりは冷たさ、その中のぬくもりのような、
ハッキリとした愛情はないし、残酷な表現もある。
そんな彼等が『優しくなった』。どういう事なのだろう。
僕はとても楽しみに待っていた。

発売一週間前になってリードタイトルの『ダンス、ダンス、ダンス』のPVが流れた。
成る程これが彼等なりの優しさか、と思った。確かに綺麗だ。優しさもある。
けど歌詞の内容はいつものPeople In The Boxだった。
きっと他の曲に優しさの意味があるんだろう、そう思って発売を待った。

そうして今日手に入れたアルバム。
中に居たPeople In The BoxはいつものPeople In The Boxだった、と思う。
『序』の感じは確かにインパクトはある。おっ、冒険してるなぁ、と。
でもそっから先はやっぱりいつも通りのPeople In The Boxだ。
皮肉と冷たさと暖かみが入り乱れた音像と、波多野氏の透き通る声だ。
今の僕は『球体』がいいなぁと思っている。

期待していた明確な『優しさ』は出してこなかった。
いつもの彼等なりの『優しさ』だと思った。それがクローズアップされただけで。
もしくは僕はかねてから彼等の中に『優しさ』を見ていたのかもしれない。
とりあえず安心した。このアルバムのPeople In The Boxしている。