最後のフィルム世代より

終わりが来る前に、まだ出来る事がある。

038.妙な勘繰りしたんだ

先輩と飲みに行った。

その先輩はいつも大変お世話になっている人で、
誰とでもすぐに仲良くなれるような気さくな人物だ。
僕が目指す場所に立っている一人なのには間違いない。

僕達は食事中、決まって恋愛絡みの話をする。


今日話したのは、僕が誰かといる時、特に好きな人といる時、
会話の合間合間に生じる少しの静寂についてだった。
僕はあれがどうも苦手で、なんとか次の話題を見つけようとする。
『話さなくちゃ、話さなくちゃ』と必死になる。
結果的にグダグダのまま、「じゃ、そろそろ帰ろうか」となる。

別にそれでも、いいとは思う。話す事が尽きたらそれはそれで。
でも僕はどうしてもあの空気が苦手なのだ。どうすればいいだろう?
先輩は『そんなん気にせんでええよ』といった。西の人なのだ。

「なんも考えないで、ぼーっとしたらいいんだよ」
「俺(僕はいつもは一人称は俺と話している)、そういうのダメなんですよ」
「こないだなー、ライブ手伝った時なんやけど。一人若い男の子おってな。その子含めて五人くらいで飲んでたんやけど、一瞬やっぱり静かになってな。そん時にその子『えー!? なにこの空気!? 俺こういうの超ダメなんだけど!』っていってな。それが一番ダメやろ?」

僕は納得した。僕は無言だが、その男の子と同じ事をしていたのだ。
何かをしなくちゃ、場を盛り上げなくちゃ。
「そんなの疲れるだけじゃん」とも先輩はいった。全くその通りだった。

僕と先輩は出されていた刺身を食って、ふぅと一息つく。僕は酒も飲む。
そして一瞬の空白。

「今、全然平気だったっしょ? こういう事よ」

なるほど、僕にも少し、理解出来たと思うのだ。