最後のフィルム世代より

終わりが来る前に、まだ出来る事がある。

042.いつだって僕らは、行き詰まっては

先日、仕事終わりにインクを買いに行ってきた。

前にローラー & クライナーの『青騎士』を購入したのを書いたと思う。
あれから暫く使っていた。当然素晴らしい青を出してくれるインクだった。
だけど元々貧乏臭い僕の事だから、
「この一書きで一体いくらになるんだろう…」とか考えてしまう。
それに『青騎士』は一応限定品だ。もうこの先再販される可能性も判らない。
つまり『青騎士』に慣れきった場合、
無くなった先で途方に暮れるのが容易に想像出来る。

だから毒に侵されてしまう前に、僕はインクを買いに向かった。


僕が今回求めたインクは、最近迎えた娘の為のインクである。
最初に僕が選んだのは緑色を中心にしたインク陣。
フルハルターのHPでも使われているような緑を求めてみた。
すっかり『青騎士』を吐き出して無垢になった娘に緑のインクを与えてみる。

白い紙に綺麗な色合いの緑が流れた。でも、そこに強い違和感がある。
僕の娘自身が青かったのが原因だと思った。
緑色のインクは緑の子から出るのが自然なのだろう。
娘も心無しかインクフロウが良くない気がした。ペン先の機嫌が悪い。
僕は店員さんに謝りながら、青いインクをいくつか持ってきてもらった。

持ってきてもらったのは、確か以下のインク達である。

・パイロット 色彩雫 紺碧
・ローラー & クライナー パーマネントブルー
・ローラー & クライナー シーブルー

本来ならJ.エルバンのインクも試したかったのだが、サンプルがなかったため諦めた。

パイロットの色彩雫シリーズは、その種類の豊富さ、パッケージのデザインから
人気の高いインクシリーズだ。僕もいくつか買ったり、友人にプレゼントしたりしている。
紺碧は非常に済んだ青で、すっきりとしている。気持ちのいい青だ。
だが色は兎に角として、色彩雫は乾いた際のグラデーションの出がそこまで良くない、
というのは個人的な意見だ。あと大分シャバシャバなフロウだ。水が多いせいだろう。
青騎士』には近いが、取って代われるものではなかった。

次に『青騎士』と同じローラー & クライナーのパーマネントブルーだ。
これは変わり種として店員さんが進めてくれた青インクだ。
まず普通に書いてみる。色は淀んだ深い青だった。
しかし、しばらく書き進めているうちに僕はある事に気付いた。
一番最初に書いた時の字の色がすっかり変わっているのだ。淡い青になっていた。
これがこのインクの特徴なのだと聴いた。なるほどこれは面白いインクだ。
だけど僕が求めているのは変人奇人ではなかったのでこれもパス。

最後に同ローラー & クライナーのシーブルー。
これは最初に書いた瞬間に『ビッ』と来るものがあった。コイツだ。
色は『青騎士』や紺碧のような濃いめの青ではない。むしろその逆だ。
まるで夏の空のようなクッキリと明るい青。空色、というべきだろうか。
名前に習うなら南の海の浅瀬の青だ。兎に角今までの青とは方向性が違った。
でも僕の手と、そこに収まる娘は喜んでいた。『これだよ』と。

今記事を書いている傍らには、シーブルーを腹八分目まで飲んだ娘がいる。
彼女が寝転んでいるノートには明るい青の文字が並んでる。
当分はこの組み合わせで行こう。『青騎士』はまたいずれ使う時がくるだろう。