最後のフィルム世代より

終わりが来る前に、まだ出来る事がある。

044.湿気たナッツ、温いコロナ

挨拶っていうのは、ささやかながらも、とても大切な台詞だ。


僕の会社は出社時、退社時の挨拶を義務づけている。
最初はなんとも堅苦しい会社だなぁ、と思ったものだ。
しかし今となってはすっかり慣れたもので、これがなかなか心地良い。
朝11時に「おはようございます」もクソもないのだが、
この台詞が綺麗に云えた日は仕事が上手く行っていると思う。

これは我が家の教訓みたいなのものなのだが、
『どんな人にでもありがとうの言葉を忘れるな』というものがある。
普段お世話になっている人にはもちろんだが、
ファミリーレストランやコンビニといったちょっとした買い物でもそうだ。
たまに何を粋がっているのか知らないが、店員に対して高圧的な態度に出る客もいる。
そんなので気持ちよく買い物が出来るはずがない、自分も、店員も。
だから僕は120円の缶コーヒーを買う時にも「ありがとう」等の礼をいう。
それでお互いに気分よくなれるのなら、云わない手はないだろう。

その日も終電ぎりぎりで退社して、コンビニに寄った。
僕は夜食にカシューナッツを食べるのが好きで、よく買って帰るようになった。
大体飲みものを一本にカシューナッツを二袋が僕のお決まりだ。
レジには太った店員が何やらファイルを眺めていた。注文のファイルだろうか?
僕がレジに向かって歩いている間もそれを眺め続け、
そしてカウンターに商品を置いた時、彼、いやヤツは無言で商品のバーコードを探った。

僕は、ヤツがいる時は、なるべくあのコンビニを使わない事にした。