最後のフィルム世代より

終わりが来る前に、まだ出来る事がある。

046.まるで僕らは始めから

村上春樹

今日の昼休み、僕は『羊を巡る冒険』を終えた。
風の歌を聴き、1973年のピンボールを打ち終え、
そして冒険が終わった。

僕は踊る為に、この一週間弱を費やしてきたんだ。


元々僕は村上春樹という作者を避けていた。
聞けば大体の人が読んでいる。非常に著名な作家。
僕は人とどこかズレたものを好きになってしまう癖がある。
逆にいえば人と同じものはそこまで好きにはなれない。

だけど僕を取り巻く環境の随所に、彼は存在した。
僕の敬愛するアーティスト達はハルキを口にしていたし、
僕の毎日を支えてくれる曲達にも節々が潜んでいた。
今まで読んでこなかったのは、読まなかったのではなく、
そうなるべくして読まずに来ていたんだと思う。

そして僕は村上春樹に呪いを掛けられてしまった。
今の僕は彼の作品を読み終えるまで、他の本は読めない。
読んだら最後、また『風の歌を聴け』から読み返さなくちゃいけない。
そうしたら今まで作ってきた僕と鼠の世界が崩れてしまうからだ。
目の前にどれだけ面白そうな小説が並んでいたとしても、それは読めない。

まだ僕は、踊る事は出来ない。
明日か明後日には始められるだろうか。