最後のフィルム世代より

終わりが来る前に、まだ出来る事がある。

058.去る者は追わず、サタデーナイト

『道具』について。
もっと云えば、今日はみんな大好きApple製品を貶します。

なのでそういうのが苦手な人はそっとウィンドウを消して下さい。


iPhoneiPod touchiPad、という製品シリーズがある。
どれも、それだけで読書も出来、写真も映像も撮影、編集出来る、
音楽を作る事も出来るし、ゲームをして遊ぶ事も出来る。
兎に角驚くような体験をたくさん出来る、魔法のようなツールだ。

でも僕は、あれは『余裕がない人が持つ道具』だと思う。

今は電子書籍なんてものが流行っている。僕も何度か使った事がある。
iPod touchという、片手に収まるサイズで読書が出来るのは確かに便利だ。
iPod touchならコートのポケットに入れておくだけで持ち運ぶ事が出来る。
しかし、鞄に本が入るだけのスペースを開けておけば、実物の本を持って行く事が出来る。
実物の本は確実にラインが引ける、ドッグイヤーをつけられる、お気に入りのしおりを挟める、
そして何より『捲れる』。iPodの画面はツルツルとしたガラスだ。

iPhoneのカメラは画質がとてもいい。両親のを見ているとそう思う。
片手であれほどの写真を、暗所でも確実に撮れるのはスゴい事だ。
だけど、ある程度の準備をし、ゆったりとした時間があれば、
iPhoneを超える画質の一眼レフで、とても綺麗な写真を撮影出来る。
どれだけ引き延ばしても、少なくとも、iPhoneより綺麗に見れるはずだ。

ゲームは、ちょっとした時間にやるのにちょうどいい。
五分ほどのちょっと時間をある程度の興奮で過ごせる。
だが最近の携帯ゲームは随分進歩している。ネット通信は勿論の事、
3D機能(まぁ大した事はないんだけど)なんてものまでついている。
さらに家に帰ってのんびりと、PS3などの据え置きをプレーすると、
どうもあの小さな画面内でのゲームでは物足りなくなってくる。
なによりあの手のゲームには目標がない。だからいつまでも続いてしまう。
僕はそういうゲームはあまり価値はないと思うのだ。

近年音楽を個人で作るためのツールやソフトは随分発達した。
アプリだけで、それなりに聞ける音楽を作れる人もいるらしい。
だが、結局電子音の組み合わせで作った音には限界がある。歌もそう。
生のエレキギターの高音に震える身体を知っているだろうか?
腹の奥底で鳴り響くベースの重低音は? 空気を揺らすバスドラムの圧力は?
そして一人の人間の身体から絞り出される歌声は?

結局、何もかも時間が掛かる事だ。だが掛ける価値はある。
三万で買える器機で済ませるのも、悪くないだろう。正直僕も少し欲しい。
だけど、時間を作り、余裕を持てばなんとでもなるものがあるのなら、
それでしか出来ない価値を見つけられるまでは、あの魔法の板に頼る事も当分ないだろう。

出来れば僕は、『余裕のない人生』は送りたくないのだ。