最後のフィルム世代より

終わりが来る前に、まだ出来る事がある。

064.覚醒する脳味噌は剥がれ落ち

絵を描く道具、とは何か。


最近Twitterにて、万年筆イラスト部なるものが立ち上がった。
僕の知人の方も参加していたので、勢いに乗じて参加する事になった。
といっても、描いた絵をただ載せて行くだけのお気楽な部である。

万年筆は、その性質上『文字を描く為の道具』と思われがちだが、
実際にはそんな事はない。というか、誰が決めた訳でもない。
元々鉛筆やボールペンだって、文字を描く為に造られたものだ。
同じように作られた万年筆で絵を描いたって、なんら不思議ではない。

では何故万年筆を主な画材として扱う人が少ないのか。
要因は大きく二つだと思う。

ひとつは「書き味」の問題だ。
イラストを描くにあたり必要になってくるのは、細い線を引ける画材だ。
精密な描写が求められる昨今のイラストにおいて、太いラインを求める人は限られている。
万年筆の書き味は太くあってこそのものだ。これではイラストには向かない。
EF(とっても鋭い)のペン先も市販されてはいるのだが、これは書き味が良くない。
さらにいえば欧米のEF仕様なので日本人にとってはF相当になってしまうのである。
追い打ちをかければ、細いペン先は圧倒的に書き味が悪い。
まるで紙を裁縫用の針で引っ掻いているようだ。

イラストに最適な万年筆を、僕は知っている。
それは市販のではなく、研ぎ出して貰って出来るEF“相当”のペン先を持つ万年筆だ。
これは通常のEFとは比べ物にならないくらい滑らかに掛ける。インクフローは抜群に良い。
また、ペンの先端のほうを持ってもしっかりと描ける(普通、万年筆は後ろ側を持つ)。
ただ、普通に万年筆を買うよりも、値は張ってしまう。
今じゃ定価販売なんて鼻で笑われる時代だ。ネットで買えば激安で買えてしまう。
だが研ぎ出しの場合は実店舗に行かなくちゃならない。交通費も掛かるし、しかも定価だ。
ふたつめの問題がこれで、ようは「値段」の問題。兎に角、高いのだ。

最近は安価でもいい万年筆が増えてきているので、そうは思われないかもしれない。
だが使って行くうちに、判ってしまうのだ。どういうものがいいものか、という事が。
スチールペン先と14金ペン先の違いも、持った時の感触も、気持ちも。

万年筆は、麻薬だ。