最後のフィルム世代より

終わりが来る前に、まだ出来る事がある。

045.なんで美味いような気になっていた

人は何かしらルールを持っている。
そんなのはない、という人でも、多分本人が気付いていないだけで、
いくつかのルールに乗っ取って生活をしているはずだ。


僕にもそういうルールがある。
それは『会社行き帰りどちらかに缶コーヒーを飲む』というものだ。

そう、僕は缶コーヒーが大好きなのだ。
元々喫茶店でコーヒーをいれていたから、というのは大して関係ない。
そもそも僕はブラックコーヒーはそんなに得意ではなかった。
店で出すから、という理由で味見をして、段々と慣れていったのだ。

僕の缶コーヒーの原点は『ポッカ ブレンドコーヒー』だ。
父親と釣りに出掛けた時に、飲んでいたのを分けてもらったんだと思う。
その甘くてほろ苦い味に、僕は幼いながらに憧れと好意を抱いた。
それから今日に至るまで、随分沢山の缶コーヒーを飲んできた。

一番缶コーヒーを飲んだ時期は、やはり大学時代だろう。一年前までの事だが。
昼休みや授業の合間に同級生と連れ立って缶コーヒーを買い求め、
そしてそれを飲みながら煙草を吸い、漠然と未来の話をしていた。
もし今の僕を見れたとしたら、当時の僕はどんな事を話して煙に巻くだろう?
兎に角山のような空き缶と吸い殻を、僕は大学に残していった。

コーヒー中毒、といってもいい。僕はそれを毎日飲む。
そうしないと身体が上手い事動いてくれない気もする。
決してカフェイン中毒ではない。純然たる缶コーヒーの中毒だ。
『缶コーヒーはコーヒーじゃない』という人もいるし、僕もそう思う。
缶コーヒーはあくまでも缶コーヒーだ。
コーヒーのように濃い琥珀色をしていないし、苦みも酸味もない。ただ甘い。
コーヒーも勿論好きだけど、僕はそれだから缶コーヒーが好きなのだ。

朝に缶コーヒーを飲めば、良い朝が迎えられる。
夜に缶コーヒーを飲めば、良い一日だったと思える。

かといって朝晩飲めば素晴らしいのか、というと、多分それは違うと思う。