最後のフィルム世代より

終わりが来る前に、まだ出来る事がある。

059.陽炎が揺れてる

フジファブリック、というバンドがある。


僕が彼等を初めて聴いたのは、近所のデパートのCDショップだった。
『FAB FOX』という、狐のかぶり物をしたメンバーの写真がジャケットという、
なんとも不思議なジャケットだった(今だとMAN WITH A MISSIONがいるのでそうでもない)。
一曲目の『モノノケハカランダ』のイントロのジャキッとした音がグッときた。
『銀河』『唇のソレ』『マリアとアマゾネス』の意味不明っぷりに驚き、
『虹』で見せた爽やかさに僕はとても驚き、慌て、理解に悩んだ。

フジファブリックは、なんといってもボーカルの志村正彦氏の声と世界観がウリだった。
無論各パートを担当するメンバーの技量も高かったが、
それでも彼の生み出す雰囲気があのバンドの中核を担っていた事は間違いない。
『赤木色の金木犀』『陽炎』『若者のすべて』みたいな静かで雰囲気の良い曲が、
僕はとても好きだった。学校の帰り道、電車の車窓の景色を見ながら良く聴いた。

彼が亡くなったのは冬の寒い日で、僕はバイトの日だった。
バイト先の友達と少しだけ話をした。内容はもう覚えてない。

最初はあまりショックもなかったけど、段々と現実感が沸いてきて、
それはやたらとシングル集だとかベストアルバムが出始めたりしたからだ。
一応ファン根性で一個大きいのを持っている。DVDと未発表曲だとかが入っているやつだ。
それはとてもいいものだった。ライブ映像は見てるだけで涙が込み上げてきた。

だけどそれは、志村が亡くなったのに便乗したかのように思えた。
金で買って良いようなものにも思えなかった。