最後のフィルム世代より

終わりが来る前に、まだ出来る事がある。

002.音楽の話 その1

僕は音楽が好きだ。

どれくらい好きかっていうと、好きで好きで仕方なく、
寝る時もカナルタイプのイヤホンを付けて寝てたら中耳炎になってしまったくらい好きだ。
それ以来カナルタイプのイヤホンは使えなくなってしまったのだが、それはどうでもいい。

兎に角僕は、一日に一定時間音楽を聴かないと精神的に不安定になってしまう。
予備校に通っていた時には勉強合宿なるものがあり、その時はiPodでさえ持込禁止だった。
仕方なく携帯に数曲だけ好きな曲を入れてこっそり聴いたりしていたが、
家に帰ってヘッドホンでのんびりと音楽を聴けた時は本当に嬉しかった。
その後僕の成績は急激に落下し、「音楽なんか聴いているからバカになるんだ」
と言われて両親と喧嘩したこともある。
それにしても、一体いつからこんな音楽バカになってしまったのだろう。


僕の両親は共に音楽を聴いていたが、二人とも好みは全く違っていた。
父はヴァン・ヘイレンに憧れエレキギターを夜な夜な弾くバリバリのロックで、
かたや母親はカーペンターズを車内BGMにしていた。
二人の車に同じペースで乗っていた、当時はスポンジのようだった僕の純粋無垢な脳みそは、
それぞれの音楽を程良く吸収した結果よく判らない事になっていた。
好んで聴いていたのは、父が友人から借りパクしたというB'zのアルバムくらいだろうか。
僕はまだ本格的に音楽に目覚めていなかった。

そんなある日、学校だか塾だかから帰ってくると、
母親がしきりに埼玉スーパーアリーナにコンサートに行こう、と誘ってきた。
姉はその誘いを快諾したらしく、今にも飛び出しそうな雰囲気だった。
しかし帰ってきたばかりのガキの僕は外に出るのはもちろん、
埼玉なんて遠くまで行くのなんてまっぴらごめんだとその誘いを頑なに断り、
最終的には母も姉も幼い僕を残して行くわけにはいかないと、
その日はコンサートに行くことはなかった。
時期が時期だったから、恐らく出たばかりのゲームボーイソフトをやりたかったのだろう。

そのコンサートが、ポール・マッカートニーの貴重な来日コンサートだと知ったのは、
それから少し経ってからだった。 

もし、あの時、断らずに行っていたら、僕の人生は大きく変わっていたかもしれない。
現時点で唯一、やり直してみたいと思う人生の岐路である。