最後のフィルム世代より

終わりが来る前に、まだ出来る事がある。

001.僕と「渋谷」という街

今の勤務地は渋谷の道玄坂方面にある。
歩いて二十分ほどの場所に伊東屋、代官山蔦屋といった文具には困らない店があり、
また周囲には美味しいランチが食べれる店がたくさんある。
働く環境としてはなかなか悪くないところだと思っている。

しかし去年の十二月、渋谷で働くことが決まった時に僕は内心びびっていた。


僕は生まれも育ちも東京である。

といっても都心部の方ではなく、どちらかといえば埼玉、山梨に近い西部の出身だ。
中学高校なんては高尾駅からバスで十五分という、
今考えればなんてバカな場所に通っていたのだろうという山奥の学校だった。
高校一年の頃に中退をしているので四年間通ったわけだが、
なんともったいない使い方をした四年間だったか。
今でも会う気の合う友人が一人、二人見つけられたのが救いだ。
また大学も八王子方面の住宅地にあった。
一番近いコンビニでも歩いて五分。近場の駅まで歩いて二、三十分掛かり、
そこには学生のためのオシャレなカフェとかそういうものはなかった。

まぁ早い話が「都会」にはほど遠い生活を二十一まで過ごしてきていた訳である。
そんな僕がいきなり「都会」の代名詞たる若者の街、渋谷に通うだなんて。
大学三年生の時の僕が見たら「大丈夫か」と心配してしまうだろう。
しかし十ヶ月過ごしてみて判ったのは、
渋谷も街として見ればそこまで悪い場所ではなかったという事だ。
無論駅前付近ではパチンコ屋が声を張り上げ、
大学生がバカ丸出しでぎゃあぎゃあ騒ぎ(僕もそんな時があったのだが)、
正直汚いという言葉しか思いつかない。

しかし駅から十分ほど歩けば、
そこには地元とあまり変わりのない街並みが広がり、
猫が車のボンネットの上で昼寝をし、
小学生の男の子がおばあちゃんに連れられコンビニでアイスを選び、
ママチャリに乗ったお母さんが買い物袋をかごに乗せて目の前を過ぎ去っていく。

一年前と今では、渋谷という街の印象も随分変わった。
というよりも、僕はこの街が気に入ってしまったらしい。
出来ればあと三年ちょっとしたら今の業界から抜け出したいと考えているのだが、
その時に僕がこの街を抜け出せるかどうかは判らない。