最後のフィルム世代より

終わりが来る前に、まだ出来る事がある。

020.でも、待ち合わせは何時でもいいさ

僕は夜道の散歩が好きだ。

いつの頃からだったろう。ヘッドホンを付けて、夜の十時くらいから、
当ても無くフラフラと散歩する事が僕の趣味になっていた。徘徊っていうとアレだね。
それで先日の散歩の時にふと思った。

『そういえばなんで、こんな事するようになったんだろう?』

そして、ある一人の女の子の事を思い出した。


僕が彼女と出会ったのはインターネット上でだった。
当時の僕は今以上にインターネットに酷く依存しており、
毎晩同級生を交えてチャットやメッセンジャーに興じていた。
彼女もそうやっているうちに知り合った子だった。
絵がとても上手い子で、よく一緒に絵チャットをしていた。

ある年の冬、僕は彼女に会いに行く事にした。東北の県へ一人旅。
迎えてくれた彼女はその年相応の容姿と服装の、ごくごく普通の女の子だった。
僕は三日間、彼女の家のお世話になった。年も迎えたし、ご飯も食べに行ったり。
音楽の趣味も僕達は気が合って、いろんなバンドの事を話したりもした。
年を越える時はASIAN KUNG-FU GENERATIONを聞いていたのをよく覚えている。

最終日の夜、コタツに入って絵を描いていると、僕は外に出たくなってきた。
というのもその時から夜コンビニに夜食を買いに行く、というのはよくやっていたのだ。
すると彼女が「じゃあ、散歩に行こうよ」と言った。僕はそれを快諾した。
二人して暖かい格好をして、玄関を開ける。外は真っ白な雪が積もっていた。

そこから僕達はしっちゃかめっちゃかに歩き回る事にした。
大きな道に出て、積雪20cmの雪を踏みしめていく。東京育ちの僕は興奮していた。
途中で大きな病院が見えたので、「あっ、なんかいる」と冗談を飛ばし合った。

彼女はその時、中学校には通っていなかった。理由はもう覚えていない。
ただ、コタツの横に投げられた空白の日本地図。書き込まれた県名は間違っていた。
通っていた時に仲の良かった友達の家を案内してくれた。その家は真っ暗だった。

それから彼女が通っていた小学校にも行った。当然、誰もいない。
真っ暗な校庭の脇にある、校長先生が立って演説するところに二人して座り、話をした。
お互いどんな小学校生活をしていたのか、とか。結構長い時間話した。

帰り道に僕達は、うろ覚えで、くるりの『りんご飴』を歌った。
雪を掻き分けて先を行き、『りんご飴』を歌う彼女の後ろ姿は今も覚えている。

話はこれでおしまいだ。その先で僕は最低な事をした。
別に犯罪は犯してはいないし、そうだったら僕は今クズ野郎になっている。
でもそのほうが、彼女をあれほど傷つける事もなかったかもしれない。
今もそれが、僕の記憶にこびりついて取れないのは、
当時の僕がそれをちゃんと理解して謝れなかったからだ。

あれからもう七年が経った。
今では僕も(それなりに)成長し、大学を卒業して働いている。
今あの子はどうしてるだろう? 今もあの雪道を歩きながら歌っているだろうか?
もしかしたら今この東京のどこかで誰かと暮らしているかもしれない。
それもいいだろう。なんだっていいから、もう一度話をしたいなと思う。
ただひたすらに謝罪と、六年分の音楽の話を。あれから随分色んなバンドを知ったから。
いつか彼女とばったり会えるかもしれない。
その時に僕は彼女を彼女だと、彼女は僕を僕だと判るだろうか。

僕は今日も、夜を歩く。
いつか隣を誰かが歩いてくれる日を待ちながら。
大好きな音楽と共に。