最後のフィルム世代より

終わりが来る前に、まだ出来る事がある。

006.音楽の話 その3

前回の続きになります。

004.音楽の話 その2



ラジオから聞こえてきたASIAN KUNG-FU GENERATIONの「君という花」のフレーズは、
ラーメンをすすっている間も僕の耳を離れる事はなかった。
あそこまでひとつの曲に引き込まれた事は後にも先にもないだろう。

週明け、僕は友達の中でも、特に音楽に詳しいやつに、
ASIAN KUNG-FU GENERATIONの事を聞いてみた。
ちょうどその頃、彼らはセカンドアルバムである「ソルファ」をリリースしていた。
某有名アニメのオープニングとして使われていた事もあり、
オリコンチャートでも一位を取るほどの人気が出始めた矢先だ。
その友達は「ソルファ」を持っていて、昼休みにそれを見せてくれた。
白を基調にしたジャケットと、歌詞カードの中のイラストにまず心を奪われた。
当時僕の中のジャケットといえばアーティスト等の写真のものが当たり前で、
まぁBUMP OF CHICKENはボーカルが描いたイラストが使われていたりもしたが、
そこまでクオリティが高いものとは思えなかった。
だから尚の事「ソルファ」のジャケットには惹かれるものがあった。

そして帰り道のバスの中で、友達のCDプレイヤーで「ソルファ」を聞かせてもらった。
「君という花」とは違えど、あの時聞こえてきた声と同じ声が聞こえてくる。
10分くらい経った時だろうか、僕は友達に質問した。
「なぁ、これいつ次の曲に行くんだ? さっきからずっと一曲続いているみたいなんだけど」
「は? もうそれ三曲目だぞ?」

「ソルファ」は冒頭「振動覚」「リライト」「君の街まで」の三曲から始まる。
そして「振動覚」と「リライト」は通して聞くと繋がって聴こえるようになっていた。
僕の場合少し無意識で聴いていたというのもあるのだが、
そういう仕様の曲順を聴いたのが初めてだった僕は、
「こいつらはなんてすごい構成を考えるんだろう!」と感動してしまった。
実はそういう作りになっているアルバムは世の中には結構ある、
というのを知るのはそれからまたしばらく経ってからだ。

「ソルファ」には「君という花」は入っていなかったけど、
僕はそれから毎日「ソルファ」を聴いて学校に通った。
後日、友達はシングルの「君という花」をCDに焼いてきてくれた。
僕の空色のMDには、選び抜いたASIAN KUNG-FU GENERATIONの曲達が入れられて、
MDプレイヤーはずっとそれを飲み込んだままの日がしばらく続いた。

これが、僕が「ロック」、そして「音楽」という世界に、
両足を深々と突っ込んだ始まりである。