最後のフィルム世代より

終わりが来る前に、まだ出来る事がある。

030.丁寧にフライパンを温めろ

僕はよく、グミを食べる。

子供の時から菓子は好きだ。チョコレート、飴、アイス。
しかし最近になってよく食べるのは、グミだ。
近頃は色んな食感、味のグミが発売されているのが面白い。
一番好きなのは昔からあるハリボーのコーラグミだ。

今日の昼も、ラーメンを食べた後にコンビニでグミを買った。
普段なら会社に戻って食べるところだったのだが、
今回はちょっと違う風にしてみた。


僕は代官山に用事があった。
蔦屋に取り置いてもらっているものがあったのだ。
普通の人なら渋谷から代官山は電車を使うのだろうか。
そこのところ僕は歩いて行ってしまう。なに、せいぜい15~20分だ。
たったそれだけの時間歩けば、会社の微妙にテンションが下がる空気を抜け出し、
100本以上の万年筆と文具、おまけに山ほどの書籍が待っているのだから。

で、まぁ当然今回も歩く事にしていたのだが。
僕はその前に、コンビニでグミを買っておいた。最近出たリンゴ味のグミだ。
中に柔らかめのゲルが入っていてそれがとても美味しいのだけど。
思い立ったのは「今日はグミを食べながら代官山へ行こう」という事だ。
つまりは『買い食い』である。

やってみるとこれがまた面白い。
同じグミなのだけど、会社のデスクで食べる時とは違った味がした。
空はすっきりとはしてないけど心地良い風が吹いていた。
それを真に受けながら口の中でグミを噛む。化学調味料だかどうかは知らないけど、
リンゴの甘ったるい香りがいっぱいに広がる。そこに風が吹いてくる。
すると鼻から入ってきた街風の匂いとリンゴの香りが混ざって、
僕は要するに、とても爽やかな気持ちになったのだ。

多分これがグミでなくとも、僕は爽やかな気持ちになれたんだと思う。
例えばマックの100円のハンバーガーでもそうだろう。
ホットコーヒー、特にボスのカフェオレなんてのも渋くて良い。
右手にサンドイッチでホットコーヒーを飲みながらなんて理想的だ。

つまりは爽やかな要因となるのは『買い食い』だ。
いや、今回はもっと踏み込んだ『歩き食い』になるだろう。
普段僕達は座って食事をする。座って箸やフォーク、スプーンでもって食べている。
立って食事をするというのはそう考えると、なかなかエキサイティングだ。
たまに立ち食い蕎麦が食べたくなったり、立ち飲み屋に行きたくなったりもする。
そして『歩き食い』は『立ち』に加えて『歩き』ながら食べるのだ。

これはもうエキサイティングどころの話ではないかもしれない。
本来移動の手段である『歩き』に食事をぶつけているんだ!
こう書くとなんだかとてもスゴい事をしているように思わないか?

思えば外国だと、歩きながらベーグルを食べる男女というのはパッとイメージ出来る。
これが日本人だと、どうだろう。恐らく外でも、ベンチに座ったりしてる。
子供の頃に親から「歩きながら食べるのは行儀が良くない」と云われた。
多分、僕の周りの殆どの人達が、そうやって教わってきているんだろうな。

でも僕は『歩き食い』を推奨していきたい。
天は人にニ物を与えず、という諺があるけれども、僕達は人間だ。
他の動物のように食事中に何かを恐れる必要もない。落ち着いてから食べる必要もない。
僕達は『歩く』事をしながら『食べる』事を出来るのだ。きっと他の動物には難しいだろう。
僕達はもっと、直立二足歩行が出来る唯一の動物としての最高の贅沢を楽しむべきだ。
『歩き食い』こそ、食事という行為の中で尊いものだと、僕は思うのだ。


ただ、『歩き食い』に適する食べ物の時にのみこれが値する事を忘れないで欲しい。
片手で食べれるものが理想だ。両手が塞がっても、それぞれ別のものを持つ事が前提。
これで吉野家の牛丼だとか、パスタサラダとかを持ち出してきた人には、
もれなくランチパック(シーチキン)を持ちながらの鉄拳をお見舞いしたい所存である。