最後のフィルム世代より

終わりが来る前に、まだ出来る事がある。

012.車両窃盗の少女

 グランド・セフト・オート、というゲームがある。

自由度の高い箱庭ゲームで、僕が中学校三年くらいの時から人気があるゲームだ
当時の僕はPS2を買ってもらったはいいものの、ろくにするゲームもなく、
当時大河ドラマをやっていた事で人気のあった新撰組のゲームをよくやっていた。
グランド・セフトシリーズは友人達の間ではすでに噂になっており、
僕もそういったゲーム(箱庭ゲームの事ね)は大好きなので気になっていた。
ただ当時の僕にはおいそれとゲームを買う財力はなかったので、
友人の話を聞いては「いいなぁ、やってみたいなぁ」と思う日々が続いた。

そんな僕が、初めてグランド・セフト・オートを観たのは、カナダだった。


僕の通っていた中学は曲がりなりにも進学校で、中高一貫校だった。
高校最初の一年目に海外研修があるのがウリだったらしく、
僕も他の生徒達同様にアメリカ・カナダに二週間渡っていた。
今考えるとなかなかに贅沢な事をさせてもらっていたのだと思う。

最初の十日間はアメリカに滞在した。
僕はグループについてくれた一人のアメリカ人の男子生徒と仲良くなったり、
エウレカのような少女(髪の色以外本当に似てた)に心奪われていたり、
あとはお決まりの友人グループで夜にアホな事をしていたりしてた。
シアトルの大学寮に泊まっていた最終日、自販機のコーラを全種類買い込んで
みんなで回し飲みしたのは良い思い出だ。ライムコーラが死ぬ程不味かった。

残りの四日間はカナダにホームステイ、という形式だった。
僕と友達はインド系カナダ人の美術教師夫妻のお世話になる事になっていた。
そこには、いかにもインドインドした二人の兄弟と太った猫がおり、
僕達は近くのショッピングモールやハイキングに連れて行ってもらった。
ハイキングではものすごい形をしたナメクジを観たのが忘れられない。

そして三日目、ホームステイの最終日。
僕達は夫妻の親戚の家へ遊びに行く事になった。
車で1時間、なんにもない道を走る。途中待ち時間の長い踏切があって変に外国を感じた。
付いた先にはインド兄弟の従姉妹の美少女(16歳)がいた。全然インドしてなかった。
海外の少女は大体が美少女に見えてしまうのは日本男子の性だろうか、僕の趣味か。
しかし僕の英語会話能力は滞在期間の間、全く進歩してなかった。
仲良くなった男子生徒とはジェスチャーを交えて会話していたくらいだ。
だから僕はトランポリンの上で笑いながら跳ね飛び回る少女を観てるしかなかった。

暫くたって、インド兄弟が自宅プールで泳いでいた僕達を呼んだ。
少女の部屋でゲームでもしよう、との事だった。
そそくさと着替えを済ませて、二階にあるという少女の部屋にいった。
部屋に入ると少女はデカい部屋の真ん中にあるテレビの前にいた。
テレビにはPS2が繋がれており、今まさにゲームの真っ最中だった。
「何してんの?」と僕がインド兄弟の弟に聞くと、「GTAさ」という。
つまりはそれが僕が初めてみたグランド・セフト・オートだった。

グランド・セフト・オートがどんなゲームか。
知らない人はいないと思うがざっくばらんに説明すれば、
「人を殺し」「ものを盗み」「ギャングとしてのし上がって行く」
大体そんなゲームだ。

目の前の少女は慣れた手つきで、笑いながら人を殺していた。